7月7日から二十四節気の「小暑」です。小暑の期間には梅雨が明けて、夏の土用があり、そして大暑へとつながります。暑さはぐっと本格化していき、七夕を過ぎると日中の日差しがとても夏らしく感じます。
小暑は高い湿度と気温が重なり、季節の変わり目で養生も少し難しい季節で。
日本ではあまりメジャーではありませんが、東洋医学の世界(中国、台湾、韓国など東南アジア)にはこの季節ならではの養生習慣「三伏」があります。
夏の暑さと清心開竅
中医学では、五行学説によって自然界と身体のつながり、臓腑や身体の各部位と病のつながりが分類されています。
五行で夏は「火」、対応する臓は「心」です。
小暑から大暑にかけては、「心」への負担がいよいよ強くなってきます。

『黄帝内経』には、
心者,君主之官也,神明出焉
『黄帝内経 素問・霊蘭秘典論』
心は君主の官である。神明(高度な精神活動)は心から生まれる。
と定義されていて、夏の暑邪が強くなると心神が乱れやすくなるため、下記のような精神的な不調も現れやすくなります。
– なんとなくイライラする、怒りっぽくなる
– 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
– 動悸がする、胸がざわつく
– ぼーっとして集中できない
こうした症状が出てきたら、それは「暑さに心神を乱されているサイン」と捉えられます。
対策として中医学でよく使われる考え方が「清心開竅‐せいしんかいきょう」です。
「心」にこもった熱を冷まし、神明の通り道(竅・あなという意味)を開いて、意識をすっきりさせる、という発想です。
「心」に関する定義は他にも…
「心は血脈を主る」
心臓の働きと同じように、血液を全身に循環させる働きがあると中医学でもされています。ポンプ運動により全身の組織に栄養と潤いを行き渡らせることで、身体の機能を支えます。
「心は神志を主る」
精神、意識、思考、記憶などの「高度な精神活動」を統括する働きです。近い定義に「心は神(精神)を蔵す」という記載もあります。総合すると、感情をコントロールし、正常な意識を保つ司令塔の役割を果たします。
「汗は心の液」
緊張や動悸で汗がでたり、大汗をかいたあとどっと疲れて動けなくなるのは、心の働きや心のエネルギーが消耗されたことに関係します。
「心は舌に開竅する」
開竅というのは、どこを見ると様子が分かるか、ということです。心の姿は外からは見えないが、舌がその姿を表しているからよく観察しなさい、ということです。
このような特徴が「心」にはあるため、「心臓」の不調として代表的な動悸や息苦しさだけでなく、イライラや、不眠、集中力の低下のような精神症状へもつながるとするのが、中医学視点での「心」の失調の特徴です。
熱のこもりやイライラを感じたら実践したい清心呼吸
熱気球のように、熱をもった気は上に昇る性質があるため、上半身や頭部は特に熱の影響を受けやすいです。
昇った熱(気)を鎮めるためには、下に重心を降ろすことが必要です。下に流れるものといえば、水。
この性質を利用して、呼吸法と合わせて心を落ち着けて身体の深いところに集中することが「清心」につながります。
- まず一呼吸する
- 水(常温以上が望ましい)をゆっくり飲み下す
- 鼻から息を吸い、先ほどの水が腸に収まるイメージで腹圧を数秒かける
- ゆっくり脱力しながら息を吐く
余裕があれば数回繰り返します。
外出先や仕事中に「イライラっ」とした時も、少し下腹部を意識して水を飲むと、心が落ち着きやすくなりますので、夏だけでなく日頃の心の養生としても活用できると思います。
心のセルフチェック方法
「心」の熱を判断する中医学の診断方法の一つに「舌診」があります。
文字のとおり、舌を観察して内臓の様子を把握する方法で、望診の一つの手法です。
より複雑な病態の把握には、知識や経験則も必要にはなってきますが、簡単なチェックは一般の方でもできるようになります。
慣れは必要だと思いますので、できれば毎朝でも鏡で確認をして「昨日よりも…」と、まずは自分比の感覚をもつことが大切です。
「心」の状態を把握するには、まず舌先(舌尖)を見ます。
舌先だけが赤い場合は「心」に熱がこもっている可能性があります。外気温の影響だけでなく、ストレスが要因の場合でも赤くなることがあります。
また、舌全体を見て、赤い点々が出ていたりする場合も「心」に熱がこもった状態の目安となります。
舌診に興味が沸いたら、こちらのnote記事も参考にしてください。サイト内ブログにもいずれご紹介していきますね。
こちらのnote記事で陰陽失調での「のぼせ」のお話も書いてます:毎年夏バテしちゃう人へ、夏至の頃からはじめたい“潤いの養生”
旬の食べ物と薬膳的な解説
この時期は「清心」と「健脾」を両立させる食材がおすすめです。
暑さによる心神の消耗と湿気による脾胃の弱り、二重の負担がかかるため、「夏だから夏野菜!!」とはなりにくいので悩ましいところ。
普段から胃腸が弱くて冷えやすい人は、夏野菜も加熱して食べたり、脾胃を助ける食材と合わせたりして楽しみましょう!
山芋、長芋、自然薯など
五味は「甘」「平」
帰経は「脾」「肺」「腎」
補脾益気、補腎の代表格。生薬名は山薬。山のお薬です。
湿気やうっかり食べちゃう冷たいもので弱った胃腸を穏やかに立て直してくれ、さらに身体の深いところの陰液を補うスーパー養生フードです。
すりおろしても、蒸しても、焼いても美味しい。
冷凍のすりおろしとろろパックを冷凍庫に常備すると、お蕎麦もおうどんもワンランクアップ。

苦瓜(ゴーヤ)
五味は「苦」「寒」
帰経は「心」「脾」「胃」
苦い食べ物は清熱作用があります。
ゴーヤはまさに「清心開竅」を助けて、脾胃も整えるこの季節にぴったりのお野菜です。
体を冷やす作用は強いので、冷え性の方や胃腸が弱い方はゴーヤーチャンプルーなど加熱して食べるのがおすすめ。
竜眼(りゅうがん)
五味は「甘」「温」
帰経は「心」「脾」
補心脾、養血安神の効能があり、生薬として漢方にも、薬膳茶としてお茶にも使われる中医学の世界では非常にポピュラーな果実。
不眠や動悸が気になる方に特におすすめです。
養生小話+ 三伏と冬病夏治
小暑が近づくと、中国や台湾ではあちこちの病院や薬店で「三伏貼」と張り紙が出されます。
三伏とは、夏至以降で最初の庚(かのえ)の日を基準に「初伏」「中伏」「末伏」と3つの期間が分かれ、約1ヶ月間の養生の目安とします。
今年の三伏は、初伏:7月15日〜7月24日、中伏:7月25日〜8月13日(20日間、大暑と重なる一番暑い時期)、末伏:8月14日〜8月23日
「三伏貼」というのは、3回の三伏の初日にそれぞれに合わせた湿布や塗り薬をする養生の文化です。
どのような生薬を組み合わせるかなどは、それぞれの先生ごとに違い、患者も馴染みの先生や薬店へ通います。
この三伏は夏の暑さを乗り越えるためだけでなく、夏の強い陽気をうまく活用して冬の不調(冷えからくる関節痛、慢性の咳や喘息、風邪、虚寒体質など)を予防しようという「冬病夏治」の発想が根にあります。
興味があれば三伏治療をする場所を探してみるのも良いと思いますが、セルフケアの養生ももちろん有効です。
– 冷たいものを摂りすぎず、胃腸の陽気を守る
– 首・お腹・足首を冷やさない
– 汗をかいて、巡りを良く過ごす
「今年の冬は楽になるぞ」という気持ちで、取り組んでみると良いと思います。
小暑の養生のまとめ
小暑は、暑さが本格化しはじめる一方で、まだ湿気もあります。
不快感や胃腸疲れによって、甘いものや冷たいものを脳は欲するかもしれませんが、逆効果になってしまうこともあります。
「心を鎮める時間をつくる」
「外は涼しく、中は冷やしすぎない」
「熱をとる食べ物と冷たい食べ物は別」
こんなことを意識してもらえると、この夏を乗りこなすコツにつながるかと思います。
蓮の花のように、暑さの中でも涼やかな顔で「清心」して過ごしましょう。


